VOL.5上原 一明さん

VOL.5上原 一明さん

2019年度山口県芸術文化振興奨励賞を受賞された上原一明さんにインタビューしました。
台湾での創作活動や山口県の印象等について、お話いただきました!

画像:上原 一明近影

- 上原一明さんのプロフィール -

沖縄県出身。10年間の台湾での創作活動を経た後、山口大学に赴任し、彫刻制作や学生指導を行う。近年は学生の留学等を通し、国際交流の橋渡しを進める。

山口県芸術文化振興奨励賞を受賞して

Q:受賞の感想をお聞かせください。
A:山口大学に赴任して十二年になりますが、大学業務をしながら研究や、学生指導を行っています。台湾との交流や展覧会など、これまでずっと行ってきたことが評価されて非常にうれしく、また光栄に思います。

作品制作について


胡蝶系列

Q:作品制作を始められたきっかけは何でしょうか
A:小さいころから絵を描くのが好きだったんです。最初は画家になりたくて、高校から油絵を本格的に描き始めたんですが、たまたま石膏の直付け(※1)を作った時に、「あ、なんか、これは面白いな」と気づきまして。芸術大学の彫刻専攻出て、基本的な彫刻の勉強をした後、大学院は保存修復技術、いわゆる仏像の修理を実際に行いながら古典技法を勉強できる研究室のある東京芸術大学に通いました。奈良の新薬師寺の四天王のうちの二体、増長天と持国天の修理が研究室で行われ、私も実際にその修理に携わったんですが、これらのこともきっかけの一つとなっています。
Q:作品を制作する上で意識されていることは何でしょうか。
A:やはり材料ですね。石なり木なり元々ある材料の良さを生かす。今回持参した胡蝶系列(こちょうけいれつ)(※2)も。木の塊を2、3日ずっと眺めるんですよ。木の形などを眺めているうちにだんだんと形が木の中にテーブル状のもの、箱状のもの、あと蝶とか、雲とか、それをどう配置するかとか、木の中からだんだん形を定めていく。後はそれを削り出すという作業ですね。 いわゆる素材との対話ですね。木なり石なり材料の方から私に訴えかけるものがあるんです。
  • ※1 石膏の直付け:粘土ではなく石膏を使い、付ける・削る等して作品を仕上げること
  • ※2 胡蝶系列:上写真

台湾との交流等について

Q:台湾とは、具体的にどのような交流をされていたのでしょうか。
A:個人的な創作活動においては、国際彫刻シンポジウムというのがありまして、大体一か月間現地に住んで、作品を作って、そのまま設置するという形です。それが3、4回くらいあったり、あと台湾の子供たちを対象にした活動を行い、自分の専門の彫刻関係の交流を続けたりしてきました。 学術的な交流としては、山口大学教育学部と、私の台湾での母校でもある淡江大学(※3)の文学院が学部間交流協定を結んでおり、いろいろ学術提携しました。学生の交換留学では、台湾から毎年2人ずつ1年間日本に滞在して、日本の文化等を学んで帰ります。今年は山口大学から初めて、1人淡江大学に交換留学生として現在行っています。
  • ※3 淡江大学:新北市淡水区にある台湾の私立総合大学で、私立大学のトップにランキングされている。
Q:台湾と山口県で交流をするとしたらどのようなことができるでしょうか。
A:純粋に芸術的な交流もできます。例えば台湾の先住民の歌を山口で公演するとか、台湾の書道と日本の書道とを同時に書き合って、その違いを感じるとか、そういう形の交流ですね。そういった分野の交流を通してお互いに良さを認識し合うこと。そういうことを少しずつ継続することで、人と人とのつながりが広がる。そうなると産業的なことにもつながる可能性もあると思いますし、そういった交流を継続的に続けることが大事だと思います。
Q:台湾で中国文学を専攻されていたということですが、どういったことを研究され、それをどういった形で作品に活かしていらっしゃるのでしょうか。
A:博士課程では、老子(※4)とか論語(※5)とかいろいろな初歩的な中国思想、中国文学を学んだのですが、その中でも老荘思想(※6)、特に荘子(※7)の世界観が私の中では面白いと思い、荘子の本を自分なりに少しずつ読み込んでいます。それを作品の中にも取り入れたり。四書(※8)の中に孟子・論語・大学・中庸というのがありますが、その中でも中庸(※9)という考え方、それを取り入れた作品も作ったりしています。今回持参した知慧七柱(ちけいしちちゅう)(※10)という作品、あの作品も竹林の七賢※11という逸話の中の七人の賢者を七本の柱として表現した作品です。


知慧七柱

  • ※4 老子:中国、春秋戦国時代の楚の思想家。
  • ※5 論語:中国の思想書。
  • ※6 老荘思想:中国、道家の説に基づき三、四世紀の魏晋時代に流行した思想。社会不安と儒家に対する反動から、老子・荘子を尊び超俗的な説を展開、清談の風を生じた。のち道教の要素となる。(三省堂/大辞林第3版より)
  • ※7 荘子:中国,戦国時代の道家の思想家。
  • ※8 四書:「大学」「論語」「孟子」「中庸」の4種の書物。儒教の基本。
  • ※9 中庸:中国の哲学書。一巻。孔子の孫の子思の作と伝えられる。元来「礼記」の中の一編であるが、南宋の朱熹しゆきが取り出して四書の一つに加え、「中庸章句」という注釈書を作った。天と人間を結ぶ深奥な原理を説いたものとして、特に宋以後重視された。(三省堂/大辞林第3版より)
  • ※10 知慧七柱:右写真
  • ※11 竹林の七賢:中国晋代に、世俗を避け、竹林で琴と酒を楽しみ、清談にふけったとされる七人。阮籍(げんせき)・嵆康(けいこう)・山濤(さんとう)・向秀(しょうしゅう)・劉伶(りゅうれい)・阮咸(げんかん)・王戎(おうじゅう)をいう。(三省堂/大辞林第3版より)

山口県の印象

Q:山口県にはどのような印象がありますか。
A:やはり、初めて来たとき驚くのは四季がはっきりしていること。春は桜、初夏は蛍、秋は紅葉とか、冬は雪が積もって。それが素晴らしいと思いました。台湾も沖縄も熱帯、亜熱帯なので年中変わらないんですよ。 また、自然環境がいいですね。やはり蛍はきれいな水がないと見られないし、日本の自然の美しさ、それが他の地域とも違うと思うんです。やはり山口独自の四季の移り変わり、美しさと言うんでしょうか。それは本当に住んでいて楽しいんです。 大体山口県内は行きましたけど、錦帯橋なり、秋吉台なり、萩の城下町、角島、長門峡とかは綺麗ですし、また都市ごとにやはり違う雰囲気がある。下関とか宇部、岩国、周南とかの工業地帯もそれぞれの特色があって。地域ごとの特色とか、それが住んでいて面白いところですね。

  • 錦帯橋

  • 秋吉台

  • 城下町

  • 長門峡

  • 周南コンビナート

  • 角島大橋

若手アーティストに向けて

Q:若手アーティストに一言アドバイスや応援メッセージをお願いします。
A:そうですね、県外、あと外国ですね、いろんなところに行くこと。 山口県の出身の方であれば山口以外の場所での就学や仕事なり生活をすること。 ぜひ機会があればいろんなところに行って見聞を広げる。 改めて地元の良さや「自分とは何か」っていう事に気づくようになるので、旅行でもいいのでいろんな場所で、いろんな人と会って、いろんな食べ物を食べて、いろんな体験をする。そのことで、自分というものを改めて再発見することができますので、そういった形で自分の創作なりを進めていけば他人の真似事ではない自分独自の世界観を構築することができると思うんです。

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