2025年度山口県芸術文化振興奨励賞を受賞された渡辺おさむさんにインタビューしました。作品制作の原動力や郷土への思いについてお話を伺いました。
渡辺おさむさんのプロフィール
山口県周南市出身。スイーツデコの技術をアートに昇華させた第一人者であり、独自の表現世界で高い評価を得ている。本物そっくりのカラフルで精巧なクリームやキャンディ、フルーツなどを用いた作品は、国内はもとより海外でも注目を集め、中国、イタリア、ベルギー、アメリカなど世界各国でも個展を開催し話題を呼ぶ。大原美術館や高崎市美術館など10ヶ所の美術館に作品がコレクションされている。今後はさらに表現の幅を広げ、世界に向けて夢と希望を届けることができる作品づくりを目指している。
受賞について
- Q:山口県芸術文化振興奨励賞を受賞されてのご感想をお聞かせください。
- A:このたびは、栄えある賞を賜り、たいへん光栄に思っております。自分が生まれ育った山口県で、このように評価していただけたことは、作家として活動してきた歳月の重みをあらためて実感させてくれる出来事でした。山口という土地が私の感性の根底にあり、それが今日の作品世界を育んでくれたのだと、今、あらためて感じています。ご推薦くださった方々、そしてこれまで支えてくださった皆さまに心から感謝申し上げます。
創作活動について
- Q:渡辺さんにとって、スイーツデコアートの魅力とは何ですか?
- A:スイーツデコアートには、人の記憶や感情を優しく刺激する力があります。ケーキやキャンディといったモチーフは、私たちの多くが子ども時代に親しんだ「甘い記憶」につながっていて、見る人の心をふと緩めたり、微笑ませたりします。私は、その“幸福感”や“ノスタルジー”を素材として扱いながら、現実と夢のあいだにあるような、独自のファンタジー空間を立ち上げたいと考えています。甘さの裏にある毒や虚構性も含めて、軽やかに現代社会を映し出せるのが、この表現の大きな魅力です。
- Q:美術作家である渡辺さんは、従来のアーティストとは違ったスタイルで作品を作っていらっしゃいますが、きっかけは何ですか。また、作品を作る上で心がけていらっしゃること、一番大変なことは何ですか。
- A:山口から東京の美術大学に進学した際、都会で育った学生たちとのセンスや技術の差に衝撃を受け、「自分にしかできない表現とは何か」と真剣に考えるようになりました。そんな中で思い出したのが、母がお菓子の先生だったこと、そして幼少期の記憶のなかにあるカラフルなお菓子の造形や質感でした。子どもの頃に強く印象に残った記憶が、今の作品スタイルの原点になっています。大学2年生の頃から、日用品や立体物に樹脂でデコレーションを施す作品を作り始め、そこから独自の「スイーツアート」が生まれていきました。 作品づくりで特に意識しているのは「色」です。スイーツには、人それぞれの幸せな記憶が結びついていると思うので、実物よりも少し誇張された鮮やかさや艶感を加えることで、作品を通じて幸せな記憶が思い起こされるような作品でありたいと思 っています。 一番大変なのは、やはりデコレーションそのものの技術と、それを持続させる集中力です。特に大きな作品では、長時間同じ姿勢で細かな作業を続ける必要があり、体力だけでなく精神的な集中力も試されます。常に緊張感と向き合いながら、丁寧に積み重ねていくしかありません。それでも、完成したときの“甘い”世界観が、見る人の心に届くことが、何よりの喜びです。

山口県について
- Q:ご自身の創作活動の中で、故郷である山口県とのつながりを感じることはありますか?
- A:はい、たびたび感じています。とくに山口の豊かな自然や穏やかな時間の流れは、私の作品に流れる「優しさ」のような感覚と深く結びついていると思います。また、山口の方々の温かさや、土地に根ざした文化を知るたびに、アートが“地域と人”をつなぐ可能性についても考えさせられます。地元での展示やワークショップは、私にとって表現の原点を見つめ直す大切な機会になっています。
未来について
- Q:今後の目標や抱負を教えてください。
- A:今後も、スイーツデコレーションを軸にしながら、新たな素材や技法を取り入れ、表現の幅を広げていきたいと考えています。特に、空間全体を作品として体験できるインスタレーションや、デジタル技術を取り入れた新しい表現にも挑戦したいです。さらに、全国各地の美術館と協力して展覧会を計画中です。今までの展覧会を上回る壮大なスケールで、より多くの人々に夢のある世界を届けていきたいと思います。
9/7日までウッドワン美術館(広島県)
9/13-11/9 福井市美術館(福井県)
10/28-11/9 九州国立博物館(福岡県)
にて個展を予定しております。
- Q:最後に、山口県の若いアーティストに向けてアドバイスや応援のメッセージをお願いします。
- A:まずは、自分が「好きだ」と思える感覚や興味を、素直に信じてほしいです。たとえ今はそれが遠回りに思えても、表現の本質は、個人の“こだわり”や“偏愛”から生まれてくるものだと思います。そして、表現に迷ったら、ぜひ山口の自然や文化に立ち返ってみてください。足元にある風景や人との繋がりが、誰とも比べられない、あなたにしかつくれない作品の源になるかもしれません。